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初めてのクリスマス。

自分の子どもに、サンタさんなんだぞーとコスプレしてプレゼントを渡すのは親の夢だと思います。
たぶん。私はそう。
しかし、あの髭は立派だ。いつ見てもほれぼれする。

あ、どうも。ハロウィン以来の更新ですね。
クリスマスだというんで、クリスマスSS書きました。
三人娘+αのお話となっております。
興味がある方は続きからどうぞです。


-1-

「そういや、そろそろクリスマスの時期かぁ」

俺は外から伝わってくる冷気を身に浴びながら、ふとそんなことを呟く。向こうにいた頃にはまったく縁の無かったイベントだったが今は違う。
いつも通りの日常を繰り返すだけでも十分幸せだが、やはりこういったイベントは、積極的にやっていきたい。この世界には無いものなら尚更だ。
それに今はキューテもいることだしな。娘がいるなら、なおのことこのイベントを逃すわけにはいかない。サンタクロースに扮するのは、親なら誰もが一度は憧れることだろう。

「問題は、キューテが何を欲しがっているか……なんだけど……」
「ん? ヒビキよ、どうかしたのか? なにやら深刻な顔をしておるが」
「ああ、アラーニェか。いやな、ちょっと考え事を……」

と、そこまで口にして、俺は一気に考えていたことを話してみる。こう見えてアラーニェもキューテのことを可愛がっているし、良い案が浮かぶかも知れない。

「ふむ、くりすます……とな。なるほど、向こうにはなかなか興味深い催しがあるのじゃな」
「ああ、それで……キューテにプレゼントでも贈ろうと思ってるんだけど……何か欲しがってるものが無いか知らないか? もしくは、プレゼントの案でも良いんだけど」
「むぅ、急にそう言われてものう。むしろ妾が欲しいくらいじゃ」
「いや、それはもちろん用意するけどさ。今はキューテのことだキューテのこと」
「……相変わらず子煩悩じゃな。まぁ、妾も気持ちは良く分かるのじゃ。キューテはほんに可愛らしいからのう」
「だろう?」

アラーニェの同意を得られ、俺はにんまりと笑みを浮かべる。このまま二人でキューテの話に花を咲かせるのも良いんだが、時間も無い以上、今は我慢する。
それよりも問題はプレゼントのことだ。見ればアラーニェも何か考え込むようにしているが、あまり良い案が浮かんではきていない様子だ。

「むぅ、こう改めて考えると難しいものじゃな。下手なものを渡して嫌われるのは勘弁願いたいものじゃし……かといって、キューテはほとんど我が儘を言わんゆえ、欲しいものが何か、とんと検討がつかん」
「そこなんだよなぁ。普段から色々言ってくれてたら予想もつきやすいのに……まいったなぁ」

良い子でいてくれるのは嬉しいし、手がかからないのも自慢できる部分だ。しかし、今回ばかりはそれが裏目に出ている。
キューテの趣味、と言われても……普段から勉強に精を出している姿は良く見ているが……プレゼントに勉強に必要なもの……というのも味気ないだろう。

「ええい、こうして二人で考えていても埒があかん! こうなったらルピュアとスィークも巻き込むのじゃ!」
「だな。あの二人もキューテのことなら断ったりしないだろうし」
「うむ。あのスィークですら、キューテのこととなると、自らの食事も後回しにするほどじゃ。ルピュアは言うまでもないじゃろう」
「良し、そうと決まったら早速行動だ。でもキューテには見つからないようにな」
「くくく、心得ておる。こういったものは黙って驚かす方が良いのじゃ。その方が嬉しさもひとしお……というものじゃろう」
「分かってるじゃないか」

二人してニヤリとした笑みを浮かべながら、俺たちは揃って立ち上がると部屋から出て行く。
念のためと小鬼たちにキューテのことを見て貰うことを頼みながら、少しだけ胸を躍らせながら二人を捜しに出た。

-2-

「つまりキューテに贈り物をするから、それを考えれば良いんですね?」
「ああ、その通りだ。何か良い案があれば、どんどん言ってくれ」
「もぐ。理解はしたの。でも……そう簡単に思いつかないの」
「それは分かっておる。じゃから、こうして全員で頭を付き合わせておるのじゃろう?」

程なくして全員が集まり、俺は早速と現状の説明を開始する。
それをすぐに理解したルピュアとスィークだが、二人は揃って難しい顔を見せる。どうやら二人にも、これといった案は思いつかないらしい。

「うーん。こうして考えてみると、あの子の趣味って何なんでしょうね……?」
「ルピュアがそれを言ってどうするの。それでも親なのかーなの」
「だ、だって! あの子我が儘なんて言わないし、暇があれば勉強してるし……!」
「落ち着かんか。そのようなこと、言われずとも妾たち全員が理解していることじゃろ」
「だよなぁ」
「あむ、もぐもぐ。だからこそ難しいの。姫と違って無欲だから、何を貰っても喜ぶと思うの」
「なんでそこで妾を引き合いに出すのじゃ!」
「自分の胸に聞いてみろなの。というか、キューテに直接聞いてみた方が良いの」
「あ、それもそうですね。いきなり言われたら少しは疑うでしょうけど、ちゃんと答えてくれると思いますよ?」
「ぐっ、やはりそれしか無いのか……?」

それは最後の手段にしたいんだが、時間も無いし仕方ないのだろうか。できるなら俺たちだけで考えたいんだが。

「待つのじゃ! 妾は反対じゃ。キューテに聞いても何でも良い……と言われるのが目に見えておるではないか!」
「あー……それもそうですねぇ。なら質問の方法を変えてみるしか無いんじゃないでしょうか」
「時間が無い以上、贅沢は言ってられないの。上手く誘導して聞くしかないの」
「それしか無いかぁ……」
「うぬぬぬ……!」

ルピュアとスィークの意見に、俺は仕方が無いと納得するが、どうにもアラーニェだけは納得できていないらしい。気持ちは痛いほど分かるんだが、ここは納得してもらわないと話が進まない。

「アラーニェも、来年からは、ちゃんと前もって用意しておけば良いんだし……今年は初めてなんだから、な?」
「ぐぬぬ……ヒビキがそう言うなら仕方あるまい。元々言い出したのはヒビキじゃしな……」
「さすがはヒビキさん。こうも姫様を言いくるめるとは……やはり素敵です」
「同意なの。姫も、そろそろヒビキに言われなくても、我が儘を言わないで欲しいの」
「やかましいわ! 妾がどうしようと、妾の勝手じゃろうが!」
「「はぁ~……」」

顔を赤く染めながら憤慨するアラーニェの姿に、ルピュアとスィークが揃って溜息を吐く。実にいつもの光景だが、今はそれを堪能している時間ももったいない。
俺は話が纏まったことを確認すると、我先にと立ち上がる。三人も俺の行動に気がついたのか、先を越されないようにと立ち上がり始める。

「なんじゃ……まさかとは思うが、おぬしらがキューテに聞くつもりか?」
「姫こそ、もしかして自分が適任だと思ってる口かなの。はっ、ちゃんちゃらおかしいの」
「なんじゃとぉっ!?」
「姫様もスィークちゃんも落ち着いてください。ここは母親であるわたしに任せてくださいよ」
「それは無理じゃ」「それは無理なの」
「ひどいっ!? な、なんでなんですかー!?」
「いやだって……のう?」
「間違いなくばれるの。ルピュアは、こういう時まったく信用できないの」
「そ、そんなぁ~~~」

満場一致の判定にルピュアががくりと肩を落とし、その場に蹲る。哀れとも思うが、この件に関しては俺も同意見なので、フォローのしようがない。
今回の目的は、なるべくさりげなくキューテから情報を聞き出すことだ。それに関してルピュアは無力だろう。そもそも何かを誤魔化すってことが苦手だろうし。

「というわけで、この場は妾に任せるのじゃ! きっとキューテの欲しいものを聞き出してみせようぞ!」
「不安なの。ルピュアとは別の意味で不安なの」
「やかましい! 良いから黙って見ておれ!」
「はぁ……ヒビキ、アラーニェに任せて大丈夫かなの」
「うーん。まぁ、本人があれだけ自信満々なんだ。任せてみても良いんじゃないか?」
「おお、さすがはヒビキ! 分かっておるのう!」
「…………どうなっても知らないの」
「……わたしを無視しないでくださいよ~」

俺の鶴の一声にスィークも渋々とだが引き下がる。ルピュアは相変わらず無視されている。後でフォローしておかないとな……
そんな俺たちの姿を見ながら、アラーニェは満面の笑みを浮かべながら、ずんずんと部屋から出てキューテの下へと向かって行く。

「……なんだか不安になってきた」
「だから言ったの。今更しょうがないの……もぐ、とりあえず着いていくの」
「だな。ほらルピュア、行くぞー」
「はーい。しくしく……」

あれだけ自信に溢れてる姿を見ると逆に不安になってくる。俺たちは、そんな共通の想いを抱きながら、アラーニェの姿を追って部屋を出て行った。

-3-

「さぁキューテよ、何でも好きなものを言うが良い!」
「はい……?」
「ん、遠慮はいらんぞ? なに妾にかかれば、どのようなものもちょちょいのちょいじゃ!」
「え、いや……アラーニェさん。いったい何を言ってるの?」

アラーニェに遅れること数秒。部屋に飛び込んだ俺たちの前で、アラーニェがキューテに話しかけているところだった。
しかし、あまりにもあまりな質問にキューテは目をぱちくりとさせて、疑問を口にしていた。うむ可愛い。

「じゃなくてだ。さすがにあれは無い」
「予想通りなの。ううん、予想より酷いの」
「キューテ、意味が分かってないですよ……」

ストレートに聞くのは悪くないが、しかしストレート過ぎるだろ。あれじゃ、せっかくのサプライズがまったくの無駄になってしまう。

「うむ? 何をじゃと……? そんなもの決まっておるではないか。つまり妾たちがキューテに……むぐぅっ!?」

このまま全てを暴露してしまいそうなのを察し、スィークがアラーニェの口に白米を突っ込む。突然のことに目を白黒させながら、アラーニェは俺たちを睨みつけてくる。

「少し落ち着くの。キューテごめんなの。姫のいつもの戯言なの」
「え、あ、はい……そうだったんですか」
「納得しちゃうんですね……姫様、哀れです……」
「いや、割と自業自得だろ」
「むがー! これスィーク! いきなり何をするのじゃ!」
「はいはいなの。やっぱり姫には任せてられないの。おとなしくこっちで見てるの」
「なんじゃとー!? 妾の何が悪いと言うんじゃ!」
「聞く耳持たないの。良いから黙れなの」
「うっ……」

有無を言わさぬ迫力有るスィークの眼光に、アラーニェは額に汗をかきながら、すごすごと引き下がる。あれだな。スィークもキューテにプレゼントをあげる状況に気合いが入っているんだろう。そりゃ、怒っても無理はないか。

「それでパパ、ママ。わたしに何か用事ですか?」
「あ、ああ。ちょっと聞きたいことがあってな」
「聞きたいことですか……?」

取り繕うように告げた俺の言葉に、少しの疑問を覚えた様子のキューテだが、それでも話を聞いてくれるのか、読んでいた本を閉じると姿勢を正す。
しかし、その姿を確認した俺は、ただ焦っていた。聞きたいことがあると言ったは良いものの、何をどう聞けば怪しまれずに済むのだろうか……?

「パパどうしたんですか?」
「い、いや。そのだな……」
「キューテ? そういえば何の本を読んでいたのかしら?」
「んー、お薬の本! これ楽しいんだよ?」
「薬の本?」

機転を利かせたルピュアの質問に答えたキューテの言葉を聞き、俺は少しだけ気になり本のタイトルを見る。キューテの言う通り薬草学の本らしく、見るからに難しそうな本だと分かる。幼くしてこんな本を読むなんて、我が娘ながらたいしたものだ。

「ずいぶん難しい本を読んでいるんだな?」
「うん。でも面白いよ。でも、やっぱり分からないことの方が多いの」
「それはそうでしょう。どう考えても子どもが読む本じゃないわよ」
「だよなぁ。でもキューテ、薬草学に興味があるのか?」
「うん! 本当ならちゃんと教えてくれる人がいたら嬉しいんだけど……」
「ほう……」
「なるほど……」

キューテの言葉にピンときた俺とルピュアは、顔を見合わせて小さく頷く。意外なところからプレゼントのヒントが得られた。つまり、キューテに薬草学を教えてくれる人を見つければ良いんだ。

「そうかそうか。良し、ありがとうなキューテ!」
「え、え? わ、わたし何かパパが喜ぶようなことしたの?」
「なーに、気にするな! あ、勉強も良いけど、外で遊んだりもするんだぞー?」
「へ、ちょっとパパ……!?」
「あらあら。ヒビキさんたら、あんなにはしゃいで……よほど嬉しかったんですね」
「あのママ……? 良く分からないんだけど……」
「ふふ、キューテは気にしなくて良いのよ。それより、ママとお薬のことお話しましょう?」
「え? 良いの……? うん! だったら、ちゃんと聞いてね!」

キューテをこのままにしておくわけにはいかないと判断したのか、ルピュアが話を聞くようにその場に座り込む。それを確認した俺は、アラーニェとスィークに目配せすると、そろそろと邪魔しないように部屋を出て行く。
後は目的の人物を捜すだけ。意外と簡単だなんて甘いことを考えながら、俺は二人を連れ立っていった。

-4-

「どうしよう……」
「安請け合いするからなの。姫の能力でも限界はあるの」
「うむ。さすがに薬草学を教える人物をピンポイントで連れてくるなど、妾をもってしても不可能じゃ」
「だよなぁ……」

あれから部屋に戻った俺は、引き受けてしまった難題に頭を抱えていた。そもそもプレゼントが人間ってどうなんだよ。無理があるだろ無理が。
安請け合いしてしまった先ほどの自分を殴ってやりたい衝動に駆られながらも、それよりもどうしたものかと考えを悩ませている。

「薬草学ってことは……医者を探せってことだよな……?」
「薬草学なら薬師なの。スィークに心当たりは無いの」
「妾もじゃな。そのような知り合いがおれば、どれほど楽なことか……」
「うーん、薬師……薬師ねぇ……」

この世界で医者という概念は普及していなかったのか。しかし薬師、なんだかゲームの職業みたいだ。どこかで聞いたことがあると思ったが、たぶんそれだろうな……

「いや、待てよ……?」

そこまで考えて、俺はピンと閃くものを感じる。そうだ、この世界に戻って来てから聞いたことがあったぞ。確かあれは……

「ああ、あの海賊ども!」
「海賊ども……? ああ、あのお宝を探しにきたーと、無断で入り込んで来たバカどもか」
「あのときは迷惑だったの。スィーク秘蔵の食料を奪われてぷんぷんだったの。思い出したら、また腹が立ってきたの!」
「それを言うなら、妾も秘蔵の酒を奪われたのじゃ! あれほどの屈辱初めてだったのじゃ!」
「そうそう。その海賊たち」

確かアヴェスとか言ったけな。魔物の妻を持つ奴だった以上に、本人のインパクトも強かったから、思い出せば鮮明に思い出せる。
あいつらの知り合いに確か腕の良い薬師がいるって話していたはずだ。人間も魔物も関係無く治療してるって話だし、キューテを教えるに相応しい!

「僥倖! これは僥倖だ! アラーニェ、今すぐあいつを連れて来てくれ!」
「いやいや、じゃから妾は人を連れてくることはできんと言うておるじゃろ。忘れるでない」
「あ、あれ……? そうだっけ……?」
「ヒビキは例外なの。でも方法ならいくらでも考えつくの」
「本当か!?」
「本当なの。完全にコソ泥だけど、姫にとっては今更なの。ちょっと耳貸すの」
「失礼な物言いはこの際良いとしてじゃ……何々? ふむ、ふむふむ……なるほどのう」

スィークの耳打ちを聞いていたアラーニェは、得心がいった風に頷くと、どこか悪そうな笑みを浮かべる。何をするつもりかは分からないが……碌なことじゃなさそうだ。

「だが問題無し! すべてはキューテの為だ!」
「なの。キューテの為なら、何をしても許されるの。迷惑なのは海賊だけだから、まったく問題無いの」
「じゃな。ではさっそく……ごにょごにょ、ふむふむ……これじゃな……それ!」

なにやらぶつぶつと詠唱を行ったアラーニェの手に、いつの間にやらコートと帽子が握られている。見た目から判断して、間違いなく海賊帽とコートだ。
おそらくはこれを餌に呼び出すつもりなんだろう。あいつらなら、すぐにでもやってくるだろう。あの海賊どもを常識の範囲に当てはめてはいけない。

「ごらぁっ! 帽子とコート返せ、この盗人ども!!」
「はやっ!? いくら何でも早すぎだろ!?」
「吃驚なの。都合が良すぎるのも、ほどほどにして欲しいの」
「じゃな。ずいぶん見つかるのが早いと思うたら、近くにまで来ておったのか」
「意味分かんないから! 良いから帽子とコート返せ! いきなり奪われるとか、酷すぎるぞ!」
「まぁ、落ち着け……」

興奮しているアヴェスを宥めながら、俺はニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。見るとアラーニェとスィークも同じような笑みを浮かべている。
その姿を見て身の危険を感じたのか、興奮していた姿は形を潜め、アヴェスは一歩後ろへと下がっていく。

「さて帽子とコートを返して欲しければ……協力してもらおうかアヴェス」
「…………おまえら、俺より海賊らしいぞ」
「やかましいの。反論は許さないの」
「そうじゃ。おぬしに許された答えは、はいの一言のみじゃ。さもなくば……」

アラーニェが帽子とコートをひらひらと振ると、アヴェスは悔しそうに唇を噛みしめながら、小さく頷く。勝利。俺たちの完全勝利だ。我ながら酷い方法だが……全てはキューテの為だ。許してもらえるだろう。

-5-

「良し! みんな準備は良いか!?」
「うむ! じゃが、この格好に意味はあるのかのう……?」
「髭が邪魔なの。ご飯が上手く食べられないの」
「わたしの羽毛で作る必要あったんですか……これ」
「しゃらっぷ! これはクリスマスにおける親の正装! 文句言わない!」

あれから数日。アヴェスに教えてもらった薬師とコンタクトを取り、理由を説明すると快く引き受けてくれた。相手が魔物だったというのは驚きだが、なかなか感じの良い娘だった。あれなら安心してキューテを預けることができる。
アヴェス? もちろん丁重にお帰り頂いたぞ。帽子とコートを返した後、宴会をしたんだが……案の定というか奥さんに見つかり、殴られて気絶。そのまま引きずられていった。
理由は無断で家を空けたから……らしいが、あいつ本当に何をしに来たんだ?

「とにかくキューテは眠ってるな?」
「はい。ぐっすりですよ」
「多少揺らしたくらいじゃ起きないの。でも時間が厳しいから、さっさとするの」
「じゃな。では……行くとしようではないか!」

全員が一斉に頷くと、俺たちはこっそりと歩きながら、キューテの部屋へと向かっていく。中に入り、ぐっすり眠っていることを確認すると、ゆっくりと抱きかかえ、そろりそろりと外へと出て行く。

「後はあの山まで運ぶだけ……スィーク頼んだぞ」
「任せろなの。いっぱいご飯も食べたし、あのくらいの距離なら余裕なの」
「……ちょ、ちょっと待つのじゃ。スィークがキューテを抱えているヒビキを持ち上げて走るということは……じゃ」
「はい。姫様はわたしが抱えて飛んでいきますよ~」
「な、なん……じゃと……!?」

笑いながら告げるルピュアに、アラーニェは顔を青ざめながら俺たちを見てくる。しかし、俺とスィークはすぐに視線を逸らすと、そのまま走る体勢を整える。つまり、キューテを抱きかかえている俺が、スィークに持ち上げられる体勢だ。

「ま、待つのじゃ! い、いやじゃ! おぬしらは妾に死ねと言うのか!?」
「姫様大丈夫ですよ。ちゃんと安全に飛びますから」
「し、信用できん! こと飛行時におけるルピュアの大丈夫ほど、信用できんものは無いのじゃ!」
「諦めるの。これ以上うるさくするとキューテが起きてしまうの」
「そうだぞアラーニェ。じゃ、また後でな~」
「ちょっ、待たんか薄情者ども! やめて、置いていくなーー!!

後ろで騒がしく叫び出すアラーニェを無視するように、スィークが一気に走り始める。かなりの速度を出しながらも、俺やキューテに振動が来ないように配慮しているのは、さすがの一言だ。
これなら明日の朝には到着しているだろう。アラーニェたちの方は心配するまでも無い。ルピュアの速度なら問題無いからな。アラーニェの身がどうなっているかは分からんが。

「ヒビキ集中するの。スィークも気をつけるけど、ヒビキもちゃんと気をつけておくの」
「おう、分かった」

声をかけてくるスィークに頷き、俺はキューテを落とさないようにしっかりと抱え、スィークの身体にしがみつく。さて、キューテは喜んでくれるだろうか……?

-6-

「ん、あれ……? もう朝……?」
「そうですよ~。おはようですよ~」
「ふぇ……? だ、誰ですか……?」
「アルルはアルルですよ~。貴女のとと様からの、プレゼントらしいですよ~」
「へ、えぇ……? プレゼント……?」

目を覚ましたキューテは、目の前で話を進めるアルルさんの様子に、目をぱちくりさせている。どうやら自分の状況が理解できていないらしく、顔には不審がるような色が広がっていく。これでは話を進める前に、キューテが泣いてしまいそうだ。

「あー、キューテ。すまん。いきなりで戸惑ってるだろうけど……とりあえず話を聞いて……」
「だ、誰ですか……!?」
「えぇっ!?」

落ち着かせようと眠たいのを我慢して話しかけたと言うのに……いきなり誰ですかとは……俺のことを無視するくらい怒っているっていうのか……!?

「ちょ、キューテ? 俺、俺だから……ヒビキ! 君の父親! 分かってるだろ?」
「ち、違うもん! わたしのパパは、そんな白い髭なんて生やしてないもん!!」
「お、おお……!? そ、そうか、うっかりしてた……!」

夜中運んで来た姿のままだったから、気づかなかったのか。これは盲点だった。そこまで完璧に変装ができていたとは……恐るべしサンタクロースの衣装。

「バカやってないで早く取るの」
「っと、そうだった。そうだった」

意味のないことを考えていた俺をスィークが注意混じりに叩き、俺は今までつけていた髭と帽子を取り去る。それで気がついたのか、キューテはようやく笑みを浮かべてくれる。

「わぁ! 本当にパパだったんだぁ。そのお髭って、ママの羽で作ってるの?」
「ああ、そうだぞー」
「それでママはどうしたの? それに、ここはどこ?」
「ああ、ちゃんと説明しないとダメだな。えーと、まずルピュアはあそこだ」
「ふぇ……?」

俺が指さす方向に視線を向けたキューテは、そのつぶらな瞳を大きく見開く。それもそうだろう。そこには顔を真っ青にして髪の毛をぼさぼさにしたアラーニェが、ぐったりと倒れているのだから。

「わわ! アラーニェさん、どうしちゃったの!?」
「おおキューテか……はは、妾はもうダメかもしれん」
「ええ!? いったい何があったの!?」
「大丈夫よキューテ。姫様は、ちょっと疲れてるだけだから心配しないでね」
「そ、そうなんだ……」
「原因であるそなたが何を言うておるのじゃ……うぅ、まだ頭がくらくらしおる……」
「……ご愁傷様なの。まぁ、スィークには関係ないことなの」
「だな。それよりキューテ……この場所なんだが……」
「う、うん……」
「おーい。少しは妾のことを心配してくれても良いのでは無いか……?」

なにやら愚痴っているアラーニェを放置しながら、俺はキューテに向かって説明を始める。しかし……どう説明したら良いものか分からず、待機してくれていたアルルさんに視線を向ける。
俺の困った様子を察してくれたのか、アルルさんはにこやかな笑みを浮かべながら、視線をキューテに合わせ頭を撫でながら口を開く。

「キューテちゃんのとと様が、キューテちゃんの為にプレゼントを用意してくれたんですよ~。アルルが、そのプレゼントです~」
「さっきも言ってたけど……なんで急にプレゼントなんて……」
「あー、それは俺の故郷で、クリスマスっていうイベントがあってだな……」

やはり要領を得ないキューテに対して、俺はクリスマスのイベントを説明してやる。初めは良く分かっていなかったみたいだが、説明を続けるにつれてキューテも理解できたのか、プレゼントである、アルルさんのことを気にするように、じーっと眺めている。

「くりすますって言うのは分かったけど……このお姉ちゃんがプレゼントなの……?」
「そうだ。ほら、キューテ薬草学の勉強がしたいって言ってただろ? アルルさんは薬師らしくてな、頼んだらキューテに薬草学を教えてくれるらしい」
「え!? ほ、本当ですか!?」
「はいですよ~。まだまだ未熟者ですけど、キューテちゃんを教えるくらいはできるですよ~。ど~んと任せちゃってくださいです~」
「う、うわ! うわ~! やったやった! 嬉しいです!」
「あはは~。そんなに喜ばれると、アルルも嬉しくなっちゃうですよ~。アルルのことは師匠と呼ぶが良いですよ~」
「はい! お師匠様!!」

なにやらノリノリで話を進めていく二人を見ながら、俺はホッと安堵の息を吐く。急にこんなところに連れてきて良かったのか不安だったが、キューテの喜びようを見ると間違いでは無かったらしい。
あれほど嬉しそうにしているキューテを見るのは初めてだ。うん、可愛いじゃないか。

「なぁ、三人ともそう思うだろ?」
「うむ。喜んでおるようじゃし、妾は満足じゃ。あの笑顔を見たら気分が悪いのも吹っ飛んでいくようじゃ」
「もぐ。あむ……キューテが喜んでくれて良かったの。頑張った甲斐があったの」
「そうですね。あんなに嬉しそうにしてくれるなんて、良いものですね。クリスマスというのも」
「ああ、そうだな」
「パパー! わたし早速お師匠様とお話してきても良いー?」
「ああ、大丈夫だぞー。あんまり迷惑はかけないようになー」
「はーい。それじゃお師匠様! よろしくお願いします!」
「任せるですよ~! それじゃいくです。ちゃんと着いてくるですよ~!」

キューテもアルルさんも嬉しそうに笑いながら、小屋の中へと入って行く。それを見送りながら、俺は今更ながらに感じてきた疲れの為、その場に座り込む。
見ると三人も我慢していたようで、俺の周りに集まってきては、同じように腰を下ろす。地面に座るのは少しだけ気になるが、キューテの邪魔をするわけにもいかない。ここは我慢するべきところだろう。

「はー。でも、来年からが大変だなー」
「あ、そうですね。今年いきなりこんなプレゼントを渡しちゃったら、来年から考えるのが大変そうです」
「なに問題あるまい。おそらくじゃが、勉強を続けておれば、色々欲しいものなども出てくるじゃろう。そうすれば、妾たちに頼むことも多くなるのじゃ」
「そうなの。もぐもぐ……それに来年のことは来年考えれば良いだけなの」
「それもそうか」

アラーニェとスィークの言葉に、俺とルピュアは顔を見合わせて小さく頷く。来年のことを今から考えても仕方ない。それよりも今は、キューテが喜んでくれたことを素直に喜ぼう。
そんなことを考えていた俺は気づかなかった。なぜか三人が俺の方へと躙り寄ってきていることに……

「で、じゃ……ヒビキよ。妾も楽しみにしておるのじゃが?」
「へ……?」
「スィークもなの。ヒビキが何をくれるのか、今までずっと聞くのを我慢してたの。早く欲しいの」
「えぇ……?」
「そうですよね。あれだけ必死になっていたんですから、わたしたちも期待して良いんですよね……?」
「…………」

綺麗な笑みを浮かべながら、真っ直ぐ視線を向けてくる三人に、俺は身体が震え汗が滝のように流れ出てくる。まずい。これはまずい。言えない。キューテのことにかかりきりで……三人のプレゼントを忘れていたんなんて……!

「妾は何かのう。ヒビキも酒飲みじゃからな。ここは珍しい酒じゃと予想しておるのじゃが」
「わたしは何でしょうね~。羽のお手入れ道具を新調したかったって言った覚えがありますから、それでしょうか?」
「スィークは食べ物なの。これは考えるまでも無いの」
「い、いや……その……」

ど、どうすれば良いんだ。これは誤魔化しようが無い。いや、今から少し時間を貰って麓の村に行けば……何かしらは手に入るかも……!

「あ、いや……ちょっと待ってくれ、えー、そのだな……」
「む……? どうしたのじゃヒビキ。なにやら顔色が悪いようじゃが……」
「本当です。大丈夫ですか? 疲れているなら、無理はしない方が……」
「ち、違うんだ……これはだな……」
「もしかして……なの」
「ぎくっ」

あまりにも不振だったのか、心配してくれるアラーニェとルピュアをよそに、スィークが訝しげな視線を向けてくる。その瞳には確信めいた光が宿っており、俺はさらに全身から汗が噴き出るのを感じる。

「キューテのことで頭がいっぱいで、スィークたちのプレゼント用意してなかった……なんてことだったりするのかもなの」
「…………」
「なんじゃと!? ヒビキ、それはまことか!? あれだけ自分から言うておきながら、用意しておらんのか!?」
「あはは、姫様もスィークちゃんも落ち着いてくださいよ。ヒビキさんに限って、そんなこと……って、ヒビキさん?」
「…………」
「どうやら当たりみたいなの。沈黙は肯定ととるの」
「ヒ~ビ~キ~!」
「いや、ま、待ってくれ……! 俺にも言い訳を……!」
「却下なの。言い訳をするなんて見苦しい真似は許さないの」
「当然じゃ。ああ、逃げようなどと考えぬことじゃ……もし逃げるようなら……」
「ひぃっ!?」

笑顔で近づいてくる二人に、俺は身体がすくみ、ただ怯えた声を出すしかない。そもそもアラーニェとスィークを前にして逃げられる可能性なんて、万が一にも存在しない。
それを察して、俺は藁にも縋る思いで、ルピュアへと視線を向ける。

「ひぃぃっ!?」

が、すぐにそれを後悔する。ルピュアは見た目こそ笑ってはいるが……その瞳には、ありありと怒りの念が渦巻いている。これはまずい……俺、死んでしまうかもしれない。

「幸いにも、ここは薬師がおるのじゃ……多少きつめの罰を与えても問題あるまいな」
「姫にさんせーなの。楽しみにしてた気持ちの分は、しっかり罰を受けてもらうの」
「そうですよね。今回ばかりは、わたしもちょーっと頭にきてるので……」
「ま、待ってくれ! 俺だけ罰を受けるなんておかしいだろ……!? み、みんなだってプレゼントを……!」
「「「はい」」」
「……………………」

キューテのことに夢中でプレゼントを忘れたのは俺だけではない。そのことを訴えようとした俺の目の前に、三人からそれぞれプレゼントを手渡される。
終わった。ぐうの音も出ないとはこのことだ。これは仕方ない。どうしようもない……どう考えても、俺が悪い。

「…………なるべく手加減して欲しい所存であります」
「「「却下」」」
「ですよねー…………って、ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

とたんに身体に伝わってくる激痛。それを受け俺はただただ悲鳴を上げるしかない。せっかくキューテに喜んでもらえたというのに、こんな最後だなんて……これが、今までクリスマスと無縁の生活を送ってきた弊害か……!
俺は薄れゆく意識の中、これからはキューテのことを考えても、三人のことを忘れ無いようにしようと誓うのだった。

-完-


後書き
メリークリスマス。プレゼントは忘れずにね!
次は正月かな? 今年もあと少し、また来年もよろしくお願いします!

コメント

No title

相変わらずの面白さでした。ニヤニヤ
三人娘といえば、スィークEDでスィークの子供達がいることになっていますが出てこないんですかね。

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まとめ【初めてのクリスマス。】

自分の子どもに、サンタさんなんだぞーとコスプレしてプレゼントを渡すのは親の夢だと思います。たぶん。